短編小説②~敦盛の最期~
(現代)
武士A
「おっと、ここはどこなんだい?さっきまで、お歯黒をした敵の首を獲ろうとしていたのだが…。イタタ。背中が痛い。何か周りの様子がおかしい。確か、ここは一ノ谷じゃなかったっけ?」
鎧兜に背中に矢が三本刺さっている武士が、ビル街の真ん中で途方にくれている。道路は車でごった返している。
武士A
「何だ❗️。この人たちは❓」
昼食をとるため、オフィスビルから、たくさんの人が外に出てきている。彼の周りには野次馬でごった返している。野次馬は、テレビ番組の企画のだと思っているのだろうか。
武士A
「お前らは何なんだ❓気色悪いものを身につけやがって❗️」
野次馬たちは大笑いしている。また、新手の毒舌タレントだと勘違いしている。そしてスマホで写真を撮っている。
気性激しく、気持ちが高ぶっている彼は持っている刀を振り回し、野次馬の中に飛び込んでく。と思いきや、刀の刃はなく、柄のみであった。彼のその物凄い形相に
「きゃぁ~」
見物していた者達は皆、逃げ散っていく。
ウ~ウ~🚓🚓
パトカーが数台、警官が十数名もやってきて、彼は取り押さえられてしまった。
👮「アッ❗️いない❗️」
👮♂️「今まで取り押さえていましたよね。」
👮♀️「目の前でフッと消えてしまったわ。」
(昔)
武士A
「何だったんだろう❓。ばかでかい建物がならび、色々な色の牛が道を走っていた。みんな気色の悪いものを着て、四角い物を私に突きつけていた。」
「おっと、さっきは何を見ていたんだろうか。あれ?平氏のあの高貴な武将がいなくなっているぞ!」
「あぁ、俺の獲物を土肥実平や梶原景時がとっちまった。50騎ほどの軍勢で、勝ちどきをあげている。」
「あぁ、15、6の少年をなぶり殺してしまったのか。こんな業の深い武士なんてもうやめたい。」
と呟いて、梶原景時にその武将は近づいた。
武士A
「梶原殿。その首の首実検が終わったあと、私がその武将の供養をしたいと思っている。実検のあと、拙者が首をもらい受けたい。」
梶原
「鎌倉殿に頼め。首実検後は、俺の知ったこっちゃない。」
(現代)
彼が現代に紛れ込んだ原因は分からない。歴史も大きく変わったわけではない。しかし、変わったことが2つある。
1つ目はJR熊谷駅前の勇ましい武将の像が、なぜか僧侶の像に変わってしまった。
2つ目は、平家物語の「敦盛の最期」の内容が変わってしまった。
(新「敦盛の最期」)
直実は「立派な大将軍であろう。敵に背を向けるとは卑怯だ。戻ってこい。」と叫んだ。
直実は、引き返してきた武士と波打ち際で取っ組み合い、倒した。首を切るため、兜を取ると、薄化粧をし、お歯黒をした自分の子どもと同じくらいの16歳ほどの美少年だった。
直実は「あなた様はどなたでございますか。お名乗りください。お助けしましょう。」と言った。
その武士は「まずそなたから名乗りなさい。」と言った。
「武蔵国の熊谷直実と申す、端武者でございます。」
「あなたには、私は良き敵だ。首を取って人に尋ねてみなさい!さあ、首を取りなさい。」
「あっぱれな大将軍である…。」
そのとき、なぜか直実が消えてしまった。直実の後ろの50騎ほどの源氏の軍勢が、その平家の大将に群がった。
後、直実が現れて、梶原景時に頼み込み、首実検後、弔うために、その少年の首と持っていた笛をもらった。その笛は平敦盛の笛だった。笛を手にした直実は「明け方一ノ谷城から笛の音が聞こえたのは、この方だったのか。戦場でも優雅を忘れてはいないのだな…。源氏の武者にはこのような人はいない。」
笛は、平敦盛の父の元へ送られた。優雅を忘れない年端もいかない少年が、50騎ほどの大人の武士になぶり殺されることに直実は嫌気が差して、仏門に入りたい気持ちがいっそう強くなった。
しかし、現代に生きる人たちは、この変化に気づいていない。
(追記)今までに歴史小説を書いているのよ。2つは連載、1つは短編。その短編歴史小説はこちら👋😊
つれづれなるままに歴史を語る(第2部③)昔話 - つれづれなるままに