連載小説~深夜の謀議その5~「つれづれなるままに歴史を語る第5部~」
(1)これまでのお話
こちらのリンクをクリックするとこれまでのお話がわかるわよ👋😉✨。ただ、逆から遡ることになるのが難点ね😅。
連載小説~深夜の謀議その4~「つれづれなるままに歴史を語る第5部」 - つれづれなるままに
小説もつれづれなるままに書いているから、どんな結末にするか考えていない😁。おおよその結末はあるのだが、そうなるかもよく分からない。それに今回の「つれ歴」の小説は、史学会の中の異説を、家康、天海、羅山の3人の会話形式で紹介しているだけという面もあるの😌。なんとなく知っているけれど、ちょっと歴史アレルギーがある方にお勧めよ。
(2)天皇家を黄泉の国に封じ込めるとは②
家康
「道春よ。そなたは分かるか?」
林羅山は、今から6年前に家康の命によって僧形となり、名を道春とした。彼は才気走り、自分の才を暗にひけらかす、プライドの高い男だった。
彼はこの翌年の大坂の役に際しては、豊臣氏に難癖をつけて、豊臣氏を滅ぼすきっかけを作った。方広寺の梵鐘に刻された「国家安康」「君臣豊楽」の言葉を徳川家を呪詛するものとした。国家安康は「家康」の名前を裂いている、これは家康公を殺すものだと。また梵鐘に刻された「右僕射源朝臣家康」という文字を、彼は「家康を射る」ものだとこじつけた解釈もしている。「右僕射」とは右大臣の唐名である。このような読み方はしない。つまり、学問上の真理をまげて、世間や権力者の気に入るような言動をしる曲学阿世の徒なのである。
しかし、こういったブレーンが250年以上に及ぶ世界史でもまれな平和な時代、徳川の平和(パクス・トクガワーナ)の土台を築いたのも事実である。政治は綺麗事だけではすまないのである。
羅山
「誠にお恥ずかしいことでございますが、分かりません。」
羅山はプライドの高い男だ。プライドを傷つけられると目尻がピクピク動く。家康と羅山は40歳も年が離れている。当時であれば、ひ孫か玄孫の年齢差だ。その年齢差であるにも関わらず「プライドを傷つけられた」と思う羅山の不遜さを、家康は気に入っている。
天海
「そうか。そなたは道春であったな。教えてしんぜよう。」
天海はこのような説明をした。
「華厳経」に財前童子の話がある。インドの金持ちの子に生まれたのだが、ある日、仏教に目覚めて文殊菩薩の勧めにより、様々な指導者53人を訪ね歩いて段階的に仏教の修行を積み、最後に普賢菩薩の所で悟りを開いた。
江戸から京都まで五十三の宿場町を設けて、たどり着いた京都で悟りを開くということにすれば…。
ここまで説明したところで天海は、口角を上げて小声で笑った。
天海
「そなたなら分かるであろう。」
羅山
「京都は悟りを開く浄土となります。そして江戸は現実的な政をする場であり、穢れたところとなります。武士は元々汚れた存在ですので、江戸は穢土でも構わないません。そして、大御所様の馬印の文字にもかなっています。」
家康は白地の布に「厭離穢土・欣求浄土(おんりえど・ごんくじょうど)」という文字を書いて、それを旗印とした。
「厭離穢土」とは、浄土教の言葉であり、現世を「穢れた国土」として、それを厭い離れるという意味である。「欣求浄土」とは、阿弥陀如来の極楽世界の清浄な国土への往生を切望するという意味である。
京都を浄土、江戸を穢土とした点は、深謀遠慮である。「穢土(江戸)を離れて浄土(京都)に行きたい」ということは、建前は尊皇である。しかし、実際は天皇家をこの世の政治から遠ざける効果がある。
家康
「流石、道春。理解がはやい。」
羅山はまだ若い。誉められれば、素直に喜ぶ。顔を赤らめながら
羅山
「各大名は京都に立ち寄ることを禁止すればよろしいのですね。京都は浄土であり、あの世なのですから。」
家康
「頭の回転が速いな(笑)。さて、そのとき島津が面倒だが。」
天皇をあの世に閉じ込めることは分かった。江戸(穢土)から京都(浄土)の間に五十三の宿場町を設ける。そして大名たちに京都に立ち寄らせることを禁じる。
しかし、深夜の謀議その2で羅山が言っていた「徳川家が関東の天皇になる」と言う発言はいったいどういうことだろうか。
家康
「天皇家は実質あの世に送ることにしよう。しかし、我が家が関東の天皇家になるのは不吉なことだ。違った形がないものか。」