短編小説①「ダイヤモンド💎」
チョークの音が聞こえてくる。
何だろう?
この胸の高鳴りは。
耳にはカツカツカツと黒板に図形を書く音。ドクンドクンと身体中で鼓動を感じている。
あぁ、校庭では8組が体育をしている。その先には僕の家が見える。カーテンがファッとなびく。風が心地よい。
そうか。
僕は数学の授業を受けているんだな。2次関数なんて簡単じゃねーか。あぁ、つまらない。
じゃぁ、何でこんなにドキドキしているんだ…。
そうか。
このあと席替えなんだ。Dさんとまた同じ班になりたいと思っているんだ。
エッ?どうしたんだろう。
僕は中3生か?
いや、そんなはずはない。このあと、県内屈指の進学校に行って挫折して、一浪して大学に進学したら1年生のときにまた挫折して、ゼミで良い仲間に出会えて…。
あれ?
それから先が覚えていない。
ミーとチュー…❓
いや、やり直せるのか❓
ということはやり直したいのか❓
蚊に刺されたところがかゆい。
えっ❗️かゆい❓
かゆさを感じるということは現実ということか。
ボクはバスケ部のDさんが気になる。「付き合ってくれ」って言いたいが、どんなきっかけで言えばよいのか分からない。
あれ❓。
ぼくは誰かにお手紙を出して返事をもらえなかったんじゃなかったっけ❓。Mさんか。
なんか頭の中がごちゃごちゃしているぞ。
このままやり直せるんだろうか。悔いばかりの人生をやり直せるんだろうか。
そうだよ。
ボクは中学生ではないはずだよ。
大学卒業後、ある地方の塾に野望に燃えて入社し挫折して、首都圏の塾に転職した。不器用ながらも頑張ってきたが、サラリーマン人生では不本意でもある。これをやり直せるのか。やり直したいのか。
ミーとチュー…。
大切な何かだよ。それがどうしても思い出せない。
いや、思い出しているんだよ。大切なものの欠片を。
だから、やり直したくはないんだよ。挫折しながらでも、大切な何かを得たんだよ。
Dさんに告白したら、違う人生を歩むかもしれない。Mさんには振られるんだよ。
もっと器用に生きる選択をすれば、今の自分ではないんだよ。
今の自分❓
ということは、中学生ではない大人の自分がどこかにいるはずだ。人望はなく才能もないが、直向きに頑張って生きている自分がいるはずだ。
暑い。
と思って目覚めた朝😅
いつものように寝起きの悪い僕がいる。胸元だけ変な汗をかき、パジャマが湿っている。チューが、寝室のドアを開け、「おはよう」と私に言う。
あぁ良かった。
でも、あの中学生のときに異性に感じた「ドキドキ」。平凡でなんの特徴もない人生だと思っても、ああいうドキドキを感じられただけでも、あの中学生から大学生の10年間はダイヤモンド💎だったんだなぁ。